2013/05/04

【文春ジブリ文庫】ジブリの教科書って何?【ナウシカ】

 2013年4月に文藝春秋から文春ジブリ文庫が創刊されました。
一つの作品につき、「ジブリの教科書シリーズ」と「シネマ・コミックシリーズ」の2つが月に一回刊行予定。シネマ・コミックはオリジナル新編集により映画の全セリフ前シーンを掲載したコミック完全版になっています。


 今回、フミが買ったのは、第一期、第一弾ジブリの教科書と題された「風の谷のナウシカ」です。

本の帯にも名作を豪華執筆陣が読み解く!と書いてあり、立花隆、内田樹、満島ひかり、椎名誠、佐藤優、川上弘美、伊藤理佐、ほか、となっています。


教科書という部分が気になり、この本の中身を構造分析してみましたw


ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ (文春ジブリ文庫)
ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ (文春ジブリ文庫)


●まずは構造分析に必要な、作品を評価や批評するときに必要な5つの視点を紹介。

  評論における5つの視点とは

1:創作論
2:研究論
3:影響論
4:読者論
5:ビジネス論


以下、それぞれの「論」についての定義


1:創作論

小説やマンガにおける作者が何を言いたかったのか?映画における監督が何を意図していたのか?という部分で書く手法。評論として一番メジャーなのもの。

時間やページ、媒体の制約。作者にも表現の限界がある。そのため、本当は何を描きたかったのか?という原イメージを推察するもの。作者にインタビューするのも質問という形式の創作論。


2:研究論

作者の表現方法の過程や作品群を歴史的に見る手法。
画面をコマ毎に分解して何が写っているのか確認、コマ割りや描線、文体から推察する方法も。

例えば、昔の少女漫画では相手に好意を伝える時、「好き」という言葉しか使われていなかった。当時の少女漫画には教育という部分が含まれていたため、「愛している」という言葉は不適切だと、編集者が認識していため。その「愛している」という言葉がいつから使われだしたか、すべての文献を調べ、波及した元を調べたりするのが研究論。

基本的に一時資料が必要となるにで、連載当時や劇場で放映された修正前の資料が信頼性があるとされる。


3:影響論

映画や小説が世間に対して、どれだけ影響を与えたか論じる手法。

例えば、ケータイ小説がヒットすることにより、書籍やドラマへの流れ。次に素人によるリアル系、実話系が多産され2007年にはベストセラーランキングのトップ3を携帯小説が独占したことなど。

ドラゴンボールのトーナメント方式が、少年誌などに与えた効果、表現方法などを語るのが影響論。


4:読者論

読者個人の視点から作品をどんな風に見えるのか語る手法。
こんなふうに見ると面白い。どこまで読むか、知識があるとどこまで作品が理解できるのかという部分。

例えば、マンガは視線誘導の仕方が、少年誌と少女漫画では変わってしまう。マンガにおける記号論などを解説して、分かりやすく伝えるのが読者論。


5:ビジネス論

どのような経済的効果を与えたのか論じるのがビジネス論。

ベストセラーになり何冊売れたのか、観客動員、DVD、キャラクター商品など、制作会社の前後の作品や年度単位で比べて論じる。販売元がビジネスとしてどれだけ成功したのか、前後の企画との販売収益などの視点から語る手法。

ビジネス論は数字や手法に対するものであって、影響論は表現方法などの波及に対して言及しているところが差異となる。



作品を評価・評論する場合は、ほとんどこの組み合わせの視点である。作品ごとに語りやすい「論」があるいので5つの内、どれかに隔たる場合が多い。その場合、創作論や影響論が多い作品であれば、研究論やビジネス論から批評してみると新しい切り口になる。



● ということで、作品を読み解くために執筆者ごとの意図している内容を構造分析。


立花隆
ナビゲーターという位置で、時代背景や世相を絡めた 創作論である。


鈴木敏夫
アニメージュ編集者時代に見た宮崎駿さんと高畑勲さんの関係性を観察した創作論になっている。


内田樹
原作であるナウシカのマンガ版と劇場版における、宮崎駿さんの心境を推察している創作論。


製作陣
スタッフによる当時の思い出を絡めた創作論。

島本須美 (声優)
宮崎駿 (監督)
高畑勲 (プロデューサー)
庵野秀明 (原画)
小松原一男 (作画監督)
中村光毅 (美術監督)
吉田忠勝 (原画)
小田部洋一 原画
久石譲 音楽


当時の新聞記事
影響論として引用。


満島ひかり
観客として注目したことを語る読者論。


椎名誠
映画の世界観を膨らませる読者論。


長沼毅
腐海のイメージを科学的に分析した研究論。


川上弘美
ナウシカという映画と自分の関係。読者論。


佐藤優
政治の世界から読み解くナウシカ。読者論。


大塚ひかり
ナウシカのキャラ作りにヒントを得た「虫めづる姫君」の解説をする創作論。


丹下和彦
「オデュッセイア」よりナウシカのヒロイン像を読み解く創作論。


山崎まどか
ナウシカを多面的に捉え彼女とは何者だったのか推測する読者論。


佐藤理佐
ナウシカという映画と自分の関係性。読者論?


E・カレンバック
エコロジーの観点から見る、ナウシカの世界観との折り合い。読者論。


大塚英志
高畑勲と宮崎駿の関係性から見る、創作論。



●つまり、内容のほとんどが読者論と創作論になるのです。

ナウシカのこと、もしくはジブリのことをもっと知りたい、楽しみたいとする人のためのもの。ファンブックと資料本の要素を合わせたのが教科書の定義のようです。

確かに、研究論、影響論、ビジネス論はスタジオジブリ公式として発売されるものでは無いかな?とも思ったりw


しかしながら、発表されてから約30年の作品、執筆陣の方々は生半可なことは言えない!とかなり深く分析して話を展開しています。気を使って表現している部分にも注目w

過去のインタビューの再録や記者発表用記事、宣材コレクションなども含めて、歴史的な資料もまとめられているので、フミ的には結構オススメです。

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